2つのアリア
この曲は優しく美しいメロディということもあって世界中の人々に愛されており、古今東西この曲をベースにしていろいろな編曲もなされています。そんな中から今回はチェロ編曲版とヴァイオリン編曲版をご紹介したいと思います。
余談ですが、元々この曲は「G線上のアリア」という曲名ではありません。先述した管弦楽組曲第3番の2曲目「Air(アリア)」です。この曲が“G線上の~”と呼ばれるようになったのは、19世紀の後半にドイツのヴァイオリニスト、アウグスト・ウィルヘルミがニ長調からハ長調に移調させるとヴァイオリンのG線だけで演奏可能なことを発見し、ヴァイオリン独奏用に編曲したのが始まりです。
それではまずはチェロ編曲版から。ご存知カザルスの演奏です。
恐らく機械吹き込み時代の録音だと思うのですが、確証はありません。聴いているとそんな感じがします。△印ですから30年代以前なのは間違いないです。
当ブログでも何度か書かせて頂きましたが、私はこの演奏に惚れ込んでいます。朴訥なチェロの響き。しかし静かに雄弁に訴えかけて来るものがあります。大きな何か、強いて言えば柔らかく、温かいものに優しく包み込まれるような感じもします。目を閉じて聴いておりますと、南仏かどこかの陽光が差し込むサロンで、パイプを銜え寛ぎながらチェロを弾いているカザルスの姿が見えるような気がします。聴き終わった後は何故か優しい気持ちになったりします。落ち込んだり精神的に不調だったりした時に必ず聴くようにしています。私にとっては究極の癒しの演奏ですね。
次はヴァイオリン編曲版。フーベルマンの演奏です。
ドイツ語でまんま「G線上のアリア」とあります(笑)
ドイツプレス。戦前のものだと思います。こちらも素晴らしく良い演奏です。G線一本で奏でているからかも知れませんが、これほどまでに素朴なヴァイオリンの音色は聴いたことがありません。静かに胸に響いてくる演奏です。聴き終わったあとは清々しい気持ちにさせられますすね。
こうして2枚の「G線上のアリア」を聞き比べてみますと共通して聴こえてくるのが“素朴な響き”と“静謐さ”です。元々名人芸を聴かせる曲ではないのですが、だからこそ演奏家の人間性(個性)がそのまま音楽となって現れてしまう難しい曲であるとも言えます。古今東西の名人名手が沢山録音を残してくれておりますので、いろいろと聞き比べてみるのも面白いと思います。機会があれば是非お試し下さい。演奏家の個性が見えて面白いですよ!