J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ イダ・ヘンデル(Vn)
私がこの偉大な曲に目覚めるきっかけとなった演奏です。このヘンデルの演奏に出会っていなければ、いつまで経っても理解が出来なかったと思います。それほどまでに私にとっては思い入れの深い演奏です。
イダ・ヘンデルは1924年生まれ(1928年と云う説もあり) ポーランドのユダヤ系ヴァイオリニストです。同世代ではジネット・ヌブーやヨハンナ・マルティ等が居ますが、夭折した2人とは違い、ヘンデルは未だに現役で活動しており、つい数年前にも来日してリサイタルを開いていた記憶があります。
私がヘンデルの実演に接したのは1998年、ラトル&バーミンガム市響の来日公演に帯同して際です。この時の演奏はブラームスの協奏曲で、左手のメカニックがかなり落ち、音程が怪しいところも幾つかあったものの、心の有り様がそのまま音楽になっているかのような感じを受け、余りにも深い演奏に身動ぎも出来ずに聴き入ってしまいました。
この無伴奏は1995年に録音されました。この時代にあって敢えてアナログ録音されています。ヘンデルの強い希望だったそうです。音質は暖かみのあるとても聴き易いもので、Hi-Fi調ではなく、やや丸みを帯びたものになっているように思います。
さて、この演奏、なんと云えば良いでしょう?
現代の若いヴァオリニストの演奏と聴き比べをすると表面上は聴き劣りがするように感じられます。
この録音が行われた頃、ヘンデルは既に老境に差し掛かっています。どうしたってテクニックは衰えて来ます。ですが、じっくり聴いていると演奏者のメッセージ(のようなもの)がバシバシ伝わってくるのです。バッハが音楽に込めた心、ヘンデルが演奏に込めた心のようなものがスッと身体に入って来るのです。正直、こんんな演奏は初めて聴きました。
テクニックと云う側面だけについて言えば、現在の若手ヴァイオリニストの方が遥かに良い演奏しています。しかしながら、作曲者と演奏家の心がここまで伝わってくる演奏は、若手演奏家からは聴くことは出来ないと思います。
その楽曲と演奏から何を感じ取るかは聴き手の自由です。是非、この演奏から伝わる思いを受け取って頂きたいと思います。
断言します。素晴らしい演奏です。
この演奏はLP、CDの両方で手に入りますが、現在容易に入手出来るのはCDです。
音質はどちらも良いと思います。余り差は感じません。
<参考LP&CD>
J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ
イダ・ヘンデル(Vn)
録音:1995年9月、11月 ロンドン・アビーロードスタジオ
CD:SBT2090
LP:SBTLP3090